はらぺこおっち丸の日記

仕事をやめてひと休み中な私と、同居人まっちゃんの、ささやかな日常。

まっちゃん、初めての美容院

まっちゃんは、野球少年だった。
学校では野球部に入り、髪の毛はバリカンで坊主にしていた。

野球部をやめたあとは、自分で髪の毛を切りはじめた。
そしてそれは27歳の現在まで続いている。
まっちゃんは、セルフカット男子になった。

まっちゃんは決して、身なりを気にしない人間ではない。むしろきちんと気にしていると思う。
体は臭くないし、鼻毛だって出ていない。歯磨きも、いつまでやってるの、というくらい丁寧にしている。
だから、セルフカットもこだわりをもってやっているはずだ。

でも私は、まっちゃんに美容院に行ってほしかった。

まっちゃんの髪型が、特に変だというわけではない。
たまに、あれ、今ひとつだなと思うことはあっても、パッと見、セルフカットだとはだれも気づかないだろう。

でもよく見ると…
毛先の長さがバラバラだ。特に後ろの方が、ところどころツンツン出てしまっている。
鏡の前で手鏡を持ち、うしろ姿を見ながら切っているのだが、やはりうしろはどうしても切りにくいのだろう。

職場でボサボサだと思われてないかな?
私は気になっていた。
(それに、今よりもっとかっこよくなってくれたら嬉しいな、とも思った。)

でも、まっちゃんは美容院に行くことを拒否していた。
人に髪を切られるのが苦手だと言っていた。
それはわかるのだけど。

そして、お金がかかるのも嫌だと言っていた。
それもわかるのだけど…

とにかくまっちゃんは、美容院に行くことを拒み続けた。
そのかわりにセルフカットの腕を磨く、と言っていたが、目に見える技術の向上はなかった。

さて、私は今の家に引っ越す前に、引越し先の近所の美容院を調べていた。
そして家とスーパーの間にある美容院に目星をつけた。男性でも行きやすそうなところだ。

そして引っ越したあと、ゴールデンウィークのある日。
まっちゃんと私は食料調達のためにスーパーに向かった。

その道中、調べていた美容院の前を通った。
私は緊張しながらもさりげなくまっちゃんに言った。

「ここに一緒に行きたいんだけど。」
「え?どこ?」

ここで一旦、話はうやむやになってしまった。

その後、昼食時にもう一度伝えた。
「さっきの美容院、一緒に行きたいんだけど。私、前髪切ってもらいたいから、一緒に行こう。」

するとまっちゃんは、聞く耳を持たない感じではなく、少し興味を持っているように見えた。

ここでプッシュ!と思い、
「カットの技術を見て学べるよ!」と言うと、まっちゃんは、
「技術盗めるかな?」と前向きな反応をみせた。

いつもと反応が全く違う。
まるで、自分の運命を悟り、美容院を拒むことを諦めたかのようだ。

と、いうことでまっちゃんは美容院に行くことになった。



後日、自宅とスーパーの間の美容院の前には、引き締まった横顔のまっちゃんがいた。

まっちゃんは、緊張と不安、そして期待感とともに、美容院という未知の世界への一歩を踏み出したのであった。

〜完〜